ミステリーの魅力 〜 騙しの技法 〜  その5

「赤いスニーカーの秘密」の続き

「赤い色は好きです。楳図かずおさんへのオマージュという意味合いもありますね。
(洋服とか)赤黒が多いのにも理由があります。もうずーっと『暗黒館の殺人』を書いてて、そろそろ解決編という辺りまで来てはいるんですが、その館がとにかく全部「黒」なんですよ。壁も黒、内装も黒、たまに赤い色がある程度で。何年も何年もこれを書いていると色の認識が自分の中で赤と黒しかなくなってきちゃって。(笑)暗黒館が完成したら色の好みも変わるかもしれませんね」
 ──綾辻さんのお好きなアルジェントも「赤」のイメージが強いですよね。
「もともと、めっきりはっきりした色が好きです」
「色の好みは‥うーん、好きな系統はありますけどね。暖色系が好きです」

質問「我孫子さんは今でも「お豆腐屋さん」になりたいのですか」
(去年の講演会の時、そういう話が出たらしい)

「なりたくはないよ、憧れてるだけで」

質問「他の人の作品を読んでいて、ネタが分かっちゃうことはありますか」

あります
「叙述系だと、分かるケースもありますね」
「アリバイトリックは分かんないけど」
「考えないですね」

 ──やはり、ネタが見えちゃうことは多いんですね。
「いや、半々くらいかな。普通の人よりは率が高いとは思いますが」
 ──安楽椅子探偵はどうでした?
ぜんぜん分かりませんでした。綾辻さんにある程度ヒントをもらっていたにもかかわらず」
「きっちり正解する人はすごいねー。
 他の作品を読む時も、どうしても書き手の立場で読んでしまう。普通こういう風になるよなと予想したその通りだと逆にがっかりしたり、いやなかなかいいなと思ったり。複雑ですね」
「見抜いても、それはそれで面白いってこともあるよね」
「確かに。僕は『占星術殺人事件』をリアルタイムで読んだんですが、あのトリックもよくよく考えれば分かりますよね。でも、本当にやってるところがスゲーな、と思いました」

質問「仲のいい作家の人は誰ですか」

「僕ら京ミス研出身者(綾辻さん・我孫子さん・法月さん・麻耶さん・小野さんあたり)は、いつまでーも京都にいて。普通ケンカするよね、うっとうしく思ったり。でも付かず離れずという感じでいい関係がずっと続いてます」
「有栖さんともいい距離感ですね。だいたい本格ミステリ系の人とは仲がいいかな、例外もいるかもしれませんが」(誰よ?(笑))

質問「尊敬する作家は」

「我孫子くんは、ポール・ギャリコ?」
「いろーんな種類の小説を書いた人なので。エンターテインメント全般において」

質問「我孫子さんはTシャツが好きなんですか」

「好き‥なんでしょうね。ネクタイなんて、何年もしたことないです」
「僕も締め方知りません。結婚式と葬式の時は、仕方なく締めますが」
(綾辻さんは長そでのジャケットをきっちり着込んでいるのに、我孫子さんはTシャツ一枚)
「僕、寒がりなんだよね。喫茶店とかの冷房も苦手で」
「でも、家ではクーラーかけるでしょ、どんな格好してるの」
「Tシャツ、かな」
「春先とか、暑いこと多いでしょ。汗だらだらになるんですよ」
「それは若い証拠だよ。僕なんか代謝も落ちて‥って、自慢してもしょうがないね、こんなこと」

質問「新しい道具を取り入れたトリックをどう思いますか、例えばAIBOとか」

「山村美沙さんが、新製品の出る度にそれをトリックに使っていたのが有名ですね。電話のトリックとか、いろいろ。パソコンが普及する前のことですけど。
 今は移り変わりが速いですから、難しいかも。携帯の機能も、1年後にはもうなくなっているかもしれないですし」
「読者の知識のないところで話が進んでもつまらないですよね」
 ──携帯が普及して、誘拐物とかは変わりましたよね。
「でも、実際の事件の記事に「小説を参考にした」なんて無責任なこと書かれたりするんだよね」

質問「暗黒館!」

「去年は「今年の今頃には」って云ってたんですけど‥なんか、不良債券の先延ばしみたいですね。IN・POCKETの方では、うっかり見たらヤバいところまでいってます。年内完結を目指します」

質問「阪神は優勝するでしょうか」

「阪神かあ、優勝を逃したらメイクミラクルですね」
「野球のことはどーでもいーです。関西にいると、どこ見ても4月からずっと阪神阪神でしょ、負ければいいのにって思います。みんな応援しなきゃいけない、みたいな雰囲気がイヤで」
「有栖さんと対談したら?」(笑)
「阪神が、というよりマスコミがイヤですね。東京でも隠れ阪神ファンがごそごそ出てきて、普段は巨人なのに、今年だけは、なんて。綾辻さんはずっとカープファンですよね」
「というか、野球ってフェアなスポーツじゃないでしょ。そもそも球場の大きさが違ってて、ホームラン何本とか云われてもねえ、ならさないと記録とは云えないでしょう。
 何となく贔屓のチームを訊くのは、血液型占いみたいなものじゃないですか」
「そもそも「どこのファンですか」っていきなり訊くのがおかしい。まず「野球はお好きですか」って訊くべきじゃないですか」
 ──「みんな野球に興味を持っている」というのが暗黙の了解になっちゃってるんですね。
「我孫子くん、調子出てきましたねえ」(笑)
 ──もしかして、広島ファンだから赤いスニーカーとか?
「それは‥どうなんでしょう」

質問「綾辻さんは来年乱歩賞の選考委員ですが、やはり優れた本格作品を推しますか」

「何をもって本格というか、人によって違いますからね」
「来年の選考委員は(井上)夢人さんでしょ、あと真保裕一さん、逢坂(剛)さん、それから‥(乃南アサさんです)
 皆さん、露骨に自分が書いているジャンルだから推す、ということはないですね。むしろその逆で、専門分野には厳しくなりがちです。文句なくいい作品に出会うと、ジャンルの如何にかかわらず何が何でも推したくなるものです。
 新人発掘という仕事は、自分がお世話になった恩返しでもあります。横溝賞や鮎川賞にも係ってきましたが、いい作品に出会うと嬉しくて、身体が自然に動いてしまうんですね。頼まれなくても宣伝したくなる。その感覚には自信を持って、真摯に取り組んでいます。
(自分の小説を書く)時間がなくなるので困るんですけどね」

質問「手品の実演をしてください」

「昔、関ミス連に泡坂妻夫さんがいらした時、手品を見せてくださったんですね。僕はその時会場にいなかったんですけど、後から我孫子くんにその現象を聞いて、「これはこうしかありえないだろう」という正解らしきものにたどり着いて。三年前の京大の講演会の時僕も実演しました(興味のある方はこちらを)。これは、ミステリより理詰めで分かると思いますよ」(すみません、分かりませんでした、私)

 手品の実演は、次の質問の後に。

質問「京都の魅力は」

「街がこじんまりしていて、山が見えるのがいいですね」
「山なんて、日本だったらたいてい見えるよ」
「でも東京は見えないよ」
「(京都って)なんか、べたーっとしてますよね。普通の都市は、盛り場が中心にはっきりあって、あとは住宅とか。でも京都ってどこへ行ってもそこそこというか、いろんな店が散らばっていて。規模がいいのかな。
 他所に住みたいと思ったことありますか?」
「ありますよ、ニュージーランドとか。あれ、これどこで云ったんだっけ?あ、去年のイベントか(興味のある方はこちらを)。実はなんですけどね」(おい!)

 ここで綾辻さんは先ほどのリクエストに応えて、煙草とコインを使った手品を見せてくださいました。
 まず胸元から財布(財布まで黒と赤!)を取り出し、中から100円玉(500円かと思ったら、100円だったんですね)を出します。片手にコイン、片手に煙草を1本。煙草の端をコインの中央に押し付けると、片側から煙草の先っぽが‥うわ、煙草がコインを突き抜けてる〜! 煙草の中央にコインが来たあたりで、今度はゆっくり引き抜きます。抜けた後には穴もない普通のコインが‥すごーい! 会場も手品の最中はシーンとして、皆一心に綾辻さんの手元を見つめていました。

「我孫子くんも昔、手品やってたよね」
「高島屋の4階だったかな? おもちゃ売場にマジックのコーナーがあって、いっぱい買いましたよ。でも最近は全然。自己分析すると僕の場合、人に見せることに乗り気になれなかったんだよね。スキーと同じ。スライハンドみたいに訓練によって高まることには魅力を感じるけど」

質問「本格ミステリの境界とは」

「それを語り出したら3時間くらいかかります(笑)。ああ、叙述トリックも本格たりうると思いますよ」
「本格って単なるジャンルの呼び名ですよね。例えばSFとミステリは決して排他的なものではないはずです。
 先日乙一くんの『GOTH』が本格ミステリ大賞を受賞しましたが、あの作品が「本格」とみなされたからといって、それ以外の何物でもない、というわけではないんですよね。あ、僕としては「『GOTH』は本格」はOKです。あの賞は投票で決めた総意ですから、結果にいいも悪いもないわけで。
 僕は予選委員で、会員からアンケートをとって、得票の多かった上位作から候補作を決める作業をやりました」
「僕はちょっと文句あったんだけどね、あ、『GOTH』を候補作とすることには全く異論はないですけど。
 なんて、偉そうに(笑)。自分の小説をちゃんと書きましょう、って感じですよね」

質問「次回作は」

「本格ミステリ・マスターズ、順調に滞っています。(笑) その後は‥考えたくないですね」
「僕、マスターズの編集委員なんで。作品の方、よろしくね」

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