ミステリーの魅力 〜 騙しの技法 〜 その6
質問「今後ミステリはどうなっていくのでしょう」
我「最近の若い作家の作品を見ていると、読者が何を期待しているのかさっぱり見えないんですよね。いわゆる「ジャンルX」(これって一般的な呼称なのでしょうか?検索してもひっかかってこないんだけど)を読んでる人と僕の作品読んでる人と、本当に同じ人なのかどうか。これ(ジャンルX)喜んでいる人に向けて書いてもしょうがないかなあって。
例えば、物語に超能力が入ってきてもいいんだけど、だったらその世界のルールを説明してから始めないといけない、西澤さんの作品はちゃんと説明がありますよね。説明がなければ現実世界のルールが適応される場なんだと思うじゃないですか、なのに違う。そういう部分を無視しちゃってるのを見ると、楽しみ方が違うのかなあって」
綾「ミステリのバランスは変わっても、本格のコアな部分は変わらないと思います。いい作品は100年経っても残るし、やっぱりいい。そのあたりは自信を持ってます。というか、確信を持ってないとやっていけないですよね」
我「他のジャンルに比べると、本格は意外としぶといなー、とは思いますね。冒険小説なんて、同じ作家がこれだけ永くに渡っては読まれないですもんね」
綾「それは時代や世界情勢が変わると、仕方ないんじゃないかな」
我「本格は、例えば昔なかなか手に入らなかったバークリーの翻訳が最近出たりしてますし、普遍的な何かを持っているから先のことも心配いらないんじゃないでしょうか。
あとは自分自身のことでしょうか。書ける量は知れているので‥もう40超えちゃったし、家族に云われるんですよ、「こんなことしてて、あと何作書けると思ってるの?」なんて。人生70年としてあと30年、でも70頃はもう書けないかもしれないし」
綾「僕は死ぬ前の日まで書こうとしていたいです」
我「果たしてその頃お見せできる物が書けるかどうか」
綾「それでも気持ちとしては、死ぬ前の日まで書いていたい。これは鮎川先生を忍ぶ会に出た時に思ったことです。僕も「あと何作書けることやら」とは思いますけどね。まあ、今のが出来たら死んでもいいや、ぐらいの気持ちで」──話は変わりますけど、『セッション』で西原(理恵子)さんが漫画描いてたでしょう、で、綾辻読本の帯にも西原さんの名前があるんだけど、ひとりだけ活字が小さい(笑)。これは意味があるんですか?
綾「当然ですよ。(笑) サイバラとはずいぶん会ってないですけど、麻雀でさんざん‥あんなひどい女はいない、才能はあるんですけどね。まあ、誰のことでもああいう風に描くのが彼女の芸ですから、内心は忸怩たるものがあるんですけど、僕も芸として悪口を云ってます。98%は嘘ですよ」質問「お薦めの本は」「古典離れをどう思いますか」
我「古いものでも薦めますか?」
綾「クイーンとかは、相手によりますね。若い読者だとちょっと‥万人には云えないですね。
最近の本だと、先ほど話題にも出た泡坂妻夫さんの『奇術探偵曾我佳城全集』。今月文庫が出ました、2分冊です。本格ミステリと奇術の融合といった短編が30作くらい、多少ばらつきはありますけど、やはりいいです」
我「僕は‥やっぱりカーかな。自分の入り口になった作家ですから、お話としても楽しめるし。作品は『火刑法廷』」
──『三つの棺』は?
我「『三つの棺』の方が難易度高いと思うんですよ。僕なんか3回読んでようやく全体の構造が分かりましたから。もちろん1回目から面白いんですけどね」
綾「『ユダの窓』は?」
我「あれはワントリックにしては長い、かな」
──最近の人は本自体を読まないですよね。
僕はここ10年、薦めるとしたら新本格の古典を。『殺戮にいたる病』『十角館の殺人』『姑獲鳥の夏』です。質問「お気に入りの館はどれですか」
綾「ころころ変わるんですよね。お気に入りの作品だったら、やはり一番最近に書いた『最後の記憶』です。昔のものほど「あたた‥」と思う、この辺は読者と逆ですね」
──ヒッチコックのように「次回作です」という答えもいいんじゃないですか。
休憩を入れて約3時間半、楽しい講演もとうとう終わりに。写真3
岩松さんからポスター当選者の発表があり、そのあと綾辻さんが「こうした機会を通じてミステリが好きになってもらえるのも嬉しいし、大学の研究の対象としてミステリが取り上げられるのも嬉しいです。ありがとうございました」とお礼の言葉を述べられました。拍手の中、三人は退場。
私達も帰途につきました。帰りの新幹線の中で、持っていったお二人の著作を眺めながら「サイン会がなかったのは残念だったなあ」と思っていたその同じ時刻、なんと会場ではいったん引っ込んだ我孫子さんと綾辻さんが出てきてサイン会を行っていたのだそうで。
それだけは残念でした。今思い出しても悔しいや。わざわざ栃木から行っただけに余計にね。今日の印象
「我孫子さん → 元祖アビコくん」
『小説たけまる増刊号』の河内さんの絵が頭に浮かびました。あの絵そのもの。
そんなに口数は多くないし、「e-NOVELSへの道!」の論調に比べると、実際の我孫子さんはずっとソフトな印象でしたが、やはり一本芯は通ってます。そういえば森博嗣さんが「ごった日記」を読んで「非常に常識的なものの見方をされる方」と書いてましたっけ。
自説をはっきり持っている人は、いいですね。男女の呼び名や阪神話のあたりに「我孫子節」を感じました。「綾辻さん → 切れ者」
そりゃとんでもなく賢い方だというのは重々承知してはおりましたが、やっぱすごいや。トリックなんかすぐわかっちゃうし、新しいのも苦もなく思いついちゃうんですよ。きっと小説のネタに困るなんてことは今後もないんだろうなあ。すごいなあ、カッコいいなあ、あとは書くだけ。レポートは以上です。長いのにお疲れさま。お読み下さってありがとうございました。
(2003/7/05)
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