mihoroの読書記録(2001年)

2001年に読んだ本の中で面白かったものをあげてみました(ミステリ中心です)。
あらすじは敢えて書いてありません。本の裏表紙などに書かれているものを参考にして下さい。
ネタバレはしてませんのでご安心を。
書名の五十音順に並んでいます。


■『UNKNOWN』古処誠二(講談社ノベルス)

 ユーモアのある文章、魅力的な登場人物。謎もシンプルでいい。でもラスト、朝香二尉の手紙を読む頃には、胸が熱くなった。
 いやあ、いいもの読んだ。感動。(2月)

■『石ノ目』乙一(集英社)(ノベルス形態)

 吉本ばななさんの初期の作品群に共通したものを感じるのは、「死」というモチーフを扱っていながらも、主人公たちがどこかしら前向きだからだろうか。逆境をも受け入れてしまう、空(あるいは神)のような心の広さ。読んでいる自分も心が透明になる気がした。(1月)

■『占い師はお昼寝中』倉知淳(創元推理文庫)

 私自身もしょっちゅう居眠りしているぐーたらな奴なので、辰寅さんにはとっても親近感(^^)。語り手の美衣子も、しゃきっとしていい。謎解きはちょっとこじつけっぽいところもあったけど、語り口の上手さと主人公たちの魅力に惹かれて、楽しく読めた。(1月)

■『神の言葉』乙一(小説すばる掲載/集英社)

 同時期に『しあわせは子猫のかたち』も読んだのだが、この二つに登場する主人公が偶然にも良く似た性質(人と接するのが苦手という)。でも、取る行動は全く逆。話の雰囲気も全然違う。
 この作品は、いい意味で裏切られる展開。ラストも予想していた着地点と違ってて、でも、唸らされた。(3月)

■『神のふたつの貌』貫井徳郎(文藝春秋)

 神の救いとは何か。キリスト教に絡めたテーマは深遠だが、あくまでそれは舞台装置(だと思う)。静謐な中にぞっとするほど容赦ない面を併せ持っている‥そんな印象を持った。
 ミステリ的仕掛けにも思わず声を上げたが、この物語の魅力はもっと別のところにある。「著者渾身の作」とのうたい文句は伊達じゃない。すごいよ。(10月)

■『奇術探偵 曾我佳城全集』泡坂妻夫(講談社)

 奇術に関連した短編の集大成。ちょっとアナクロっぽい表現もご愛嬌かな。
 唸らされたり、笑わせられたり、ほっとしたりびっくりしたり。様々な色合いの物語があるのだが、最後まで読んで「うわあ」とのけぞった。ラストがちょっと‥という意見も幾つか目にしたが、私はこの結末で、納得。(8月)

■『きみにしか聞こえない』乙一(角川スニーカー文庫)

 読み終わった後、思わず本を抱きしめていた。もう‥言葉にならない。素晴らしい。
 この若さ(22歳)でこれだけの物語を紡ぎ出せるとは‥今後彼はどこまで成長するのか、ますます楽しみ。
「この世に生まれるということは、なんと辛く、そして光に満ちているのだろう」(6月)

■『凶笑面』北森鴻(新潮社)

 民俗学とミステリとをリンクさせているところが、とても面白かった。
 収録作五作の中では「不帰屋」が最も心に残った。表題作「凶笑面」も、ラストのオチが印象的。「双死神」は続編につながりそうで、期待大。
 ただ、探偵役の蓮丈那智の描写が、いかにも「男の人が書いてるな」って部分が幾つかあって、それが個人的にはちょっと気に障ったかな(蓮丈先生というキャラ自体は好きなんだけどね)。(7月)

■『幻惑の死と使途』『夏のレプリカ』森博嗣(講談社文庫)

 二冊を、内容の時系列順に交互に読んだ。こんな経験、滅多に出来るものではないので、この読み方はおすすめ。謎も魅力的だし、萌絵が主な語り手であることも私にとって読みやすかった一因かも。(1月)

■『巷説百物語』京極夏彦(角川書店)

 御行の又一、山猫廻しのおぎん、考物の百介、事触れの治平。彼らが様々な仕掛けをほどこし、悪行を暴く‥とまあ「必殺」と通じる部分もあるが、ワンパターンにならないところはさすが。
 仕掛けの本筋を知らずに手伝わされた百介に、又一らがからくりを説明する段になって、読者にも物語の全貌が見えてくるのだが、これがあたかもミステリの「謎解き」のよう。「舞首」なんかは特に「良く出来てるなあ」と感心させられた。(7月)

■『黒祠の島』小野不由美(祥伝社ノン・ノベル)

 登場人物ひとりひとりの生い立ちやら環境やらのバックグラウンドがきちんと書かれているので、彼らのとった行動に納得がいく。そういうところはさすが。因習に囚われた島といっても、島民それぞれに思うところは違って、頑な人もいれば、割と協力的な人もいる。十把一からげにしないところがいいと思った。犯人よりも、作中のある設定に「おお、そうだったのか!」と思わず声を上げた私。ラストシーンも気に入った。(2月)

■『壷中の天国』倉知淳(角川書店)

 倉知さんのユーモア溢れる語り口は好きだが、過去の作品については「面白いんだけど、ちょっと冗長かなあ」と思ったのも事実。
 ところが、この作品に関しては、まったく飽きさせる部分がなく、一気に読めた。この筆力は大したもの。登場人物も活き活きしているし。
 この真相だと、ど真ん中の本格とは云い難いかもしれないが、冒頭の怪文書のインパクトといい、伏線の張り方の上手さといい、納得の第1回本格ミステリ大賞受賞作だ。(7月)

■『3LDK要塞 山崎家』太田忠司(幻冬舎文庫)

 たまにはこういう、毛色の変わったのもいいかも。著者が楽しんで書いているのが良くわかって、読んでいても楽しい。(10月)

■『屍鬼』小野不由美(新潮社)

 これは凄い。質、量ともに特級品。閉息的な村社会という、いかにも日本的な舞台設定なため、物語が自分のことのように身近に感じられた。怖さも切なさもとてもリアル。「屍鬼」がマイノリティであるという設定も良かった。(1月)

■『失踪HOLIDAY』乙一(角川スニーカー文庫)

 コタツのように暖かい気持ちをもらった感じ。ちょっと腑に落ちない部分もあるが、読後感が良かったので、まあいいや。天藤真さんの『大誘拐』に対して「小誘拐」といったところか。
 同時収録の短編『しあわせは子猫のかたち』も期待通りの物語。(3月)

■『死にぞこないの青』乙一(幻冬舎文庫)

 残酷だけど透明。ぞっとするけど暖かい。まさしく乙一ワールド全開だ。絶対的大人として君臨してしまう先生の存在が、恐ろしい。(10月)

■『ジュリエットの悲鳴』有栖川有栖(ジョイ・ノベルス)

 「小説」としての味わい深さが心に残った。人の哀しさや、それと紙一重の滑稽さなんかがとてもよく描かれていると思う。
 ショートショートは上手いなあって感心。「登竜門が多すぎる」は爆笑。一番のお気に入りは表題作かな。「裏切る眼」のラストシーンも印象的。
 装幀も素晴らしい。洗練されたセンスといい、文章の並べ方といい、出色の出来映え。(4月)

■『消失!』中西智明(講談社ノベルス)

 トリッキーな作品とは聞いていたが、なるほど、そうきたか。予想できた部分もあったものの、あるところは「わっ!」と驚かされた。ただ、もう一回読み直さないと、本当にフェアかどうかよくわからないなあ。(6月)

■『人面瘡』横溝正史(角川文庫)

 なんといっても、金田一耕助のキャラクタがいい。飄々としていて、暖かみがあって。扱っている事件が陰惨であっても、横溝作品には確かに「品格」がある。
「蝙蝠と蛞蝓」「人面瘡」が特に心に残った。(11月)

■『天帝妖狐』乙一(集英社文庫)

 独特の世界観は他の追随を許さない。この若さで(執筆時、著者は10代後半)既に独自の世界を確立しているというのは、凄いと言うしかない。
「A MASKED BALL 一及びトイレのタバコさんの出現と消失一」伏線もなかなか。ネット上ならよくありそうな話を、トイレの落書きで語ったところが、秀逸。(8月)

■『陀吉尼の紡ぐ糸』藤木稟(徳間文庫)

 独特の物語世界に読者を引っぱり込む手腕は凄い。これがデビュー作とは、いやはやお見事。読んでてゾクゾクさせられた。次作も楽しみ。(3月)

■『慟哭』貫井徳郎(創元推理文庫)

 この小説は「ミステリ以外の部分」に魅力を感じた。綾辻さんの小説が「ミステリ以外の何物でもない作品」であるのとは対照的かも。作中のある仕掛けについては途中で予想がついたのだが、それでもやはり読みごたえがあった。重いテーマでも、目を反らさずにしっかりと対峙する、そんな作者の凛とした姿勢が感じられて、好もしかった。(9月)

■『とりのなきうた』氷上恭子(「創元推理21冬号」掲載)

 病床にある少女が、日常を綴って兄へと宛てた手紙から始まる物語は、一転して不可解な事件の勃発、さらには意外な結末へと展開。短編とは思えない読みごたえ。もう一度じっくり読み直してみたいと思わせる力作だった。
 ただ、古風な文体は、京極さんの小説を読み慣れた目で見ちゃうと「惜しい、もう一息!」と云わざるをえないかな。
 『禽の亡歌』から『とりのなきうた』への改題は、残念。旧題の方が相応しい。(10月)

■『夏のレプリカ』森博嗣(講談社文庫)→『幻惑の死と使途』

■『ななつのこ』加納朋子(創元推理文庫)

 とても優しい気持ちになれる本。主人公の駒子が体験する日常の謎と、童話集『ななつのこ』が上手くリンクしているし、佐伯綾乃さんの謎解きも鮮やか。最後には「あっ」と驚かされるちょっとした仕掛けもあったし。
「白いタンポポ」「一万二千年後のヴェガ」が特に心に残った。(2月)

■『日曜の夜は出たくない』倉知淳(創元推理文庫)

 猫丸先輩の推理は「おー、そうだったのか!」と溜飲が下がるというよりは、「まあ、そういう見方もできるわな」という感じ、すなわち論理的な部分が少々弱い気もするが‥。
 短編では「約束」が好き。そして、何と言っても七つの短編が終わった後の二章が‥!!。本格としてフェアかどうかとか云う前に、嬉しいじゃないですか、こういう遊び心。(10月)

■『人形はライブハウスで推理する』我孫子武丸(講談社ノベルス)

 大好きな人形シリーズの最新刊。我孫子さんといっこく堂さんの対談も併録。
 大半は雑誌掲載時に読んでしまっていたので、ちょっと後悔。でも、書き下ろし(「腹話術志願」)のトリックは、おおっと思った。
 おむつと朝永さんの今後、まだまだ書き続けてほしい(結婚式とか、子供が生まれてからとか‥)。(9月)

■『人間は笑う葦である』土屋賢二(文春文庫)

「解説・森博嗣」に惹かれて購入(笑)。帯のコピー通りの「爆笑エッセイ」。ただ私にとっては森さんのエッセイの方がツボにはまるな。(3月)

■『眠れぬ夜の殺人』岡嶋二人(双葉文庫)

 すらすら読めちゃう平易な文章、わくわく引き込まれるサスペンス、くっきり書き分けられた登場人物。今となっては少々「古いな」と思える部分もあったが、楽しめた。
 良くも悪くも二時間ドラマを見ているような感じ。でも、ドラマの出来はいいよ。(12月)

■『眠れぬ夜の報復』岡嶋二人(双葉文庫)

 会話文が多いせいもあって、一気に読めちゃう。でも、こういう読みやすい文章って、実際書くとなると、おいそれとは書けないもの。謎も惹き付けられるものがあるし。上手いな。(12月)

■『匣庭の偶殺魔』北乃坂柾雪(角川スニーカー文庫)

 「偶殺」というのが気に入った。登場人物のひとりにどうしても馴染めず、読むのにたいそう時間がかかってしまったのも事実だが。(12月)

■『火蛾』古泉迦十 (講談社ノベルス)

 12世紀の中東、イスラム教の世界が舞台。といっても、イスラム教の事など何にも知らない私でもそれなりに読めた。むしろ、物語の世界に浸るためにもっと書き込んでほしかったと思ったほど。
 謎を解く鍵がすべて明示されている訳ではないが、解決の段はなかなかに惹き付けられた。(7月)

■『浩子の半熟コンピュータ』谷山浩子(毎日コミュニケーションズ)

 ミステリではないが。浩子さんがパソコン雑誌に連載していたエッセイを一冊に纏めたもの。ほのぼのしていて、淡々としていて、楽しかった。(9月)

■『プレゼント』若竹七海(中央公論社)

 このところの読書、ミステリ以外の部分の比重が大きい作品がたまたま続いていたので、こういう「ミステリ以外の何ものでもない作品」は、古巣に戻ってきたみたいな感じで、楽しく読めた。
 若竹さんって、語り口がとても男性的な気がする。(3月)

■『ぼくのミステリな日常』若竹七海(創元推理文庫)

 構成が上手い。あと、社内報の目次が実に細かく作り込まれていて、楽しかった。短編集とはいえ、全体で一つの物語になっているので、ホントは一気に読むべきでした。若竹さん、ゴメンなさい。(1月)

■『魔法飛行』加納朋子(創元推理文庫)

 『ななつのこ』同様、短大生の駒子が主人公の連作短編(いや、中編かな?)集。小さな物語にはそれぞれ、駒子の身近に起こった謎が書かれていて、それを解き明かしてゆくというのが主な流れなのだが、それとは別に大きな「?」があって、それが一気に収束する四編目が特に心に残った。うん、すごかった。(5月)

■『未完成』古処誠二(講談社ノベルス)

 古処さんの小説は、端正な本格でありながら、社会派でもある。組織の中の個人とは、正しいってどういうことか、人間の尊厳とは‥いろんなことを考えさせられ、胸に迫るものがあった。
 題名の「未完成」の意味するところが、最後に分かる。未完成の「未」がはずれる日は来るのだろうか。憂慮される材料は多いが、希望は捨てずにいたいものだ。(7月)

■『美濃牛』殊能将之(講談社ノベルス)

 とても読みやすい平易な文章と、そこはかとないユーモア。「人を喰ったような」という表現が一番ぴったり来るかな。探偵役の人物もなかなかユニーク。
 でも、全体としてはしっかりした「本格物」と云えるだろう。
 霜降り和牛のすき焼きが食べたくなった(笑)。(2月)

■『名探偵は、ここにいる』(角川スニーカー文庫)

 さらっと読めるけど、なかなか面白い。ミステリ初心者にも通にも楽しめるかと。
太田忠司「神影荘奇談」既刊の俊介君シリーズを読んでいないと、ちょっと良さが分かりにくいかも。
鯨統一郎「Aは安楽椅子のA」確かに安楽椅子探偵だわ。わはは。
西澤保彦「時計じかけの小鳥」なるほど、西澤さんってこういう作風なのか。結構好み。
愛川晶「納豆殺人事件」笑えるけど、解決編はどんぴしゃ決まるよ。(12月)

■『素子の読書あらかると』新井素子(中央公論新社)

”書評”ではなくて”読書エッセイ”。
「これは、こうです」って云い切ってるところが、読んでて気持ち良かった。素子さんも、歳をとったんだなって思った(いい意味で)。(3月)

■『八つ墓村』横溝正史(角川文庫)

 陰惨な暗い語り口かと思いきや、ほのぼの(?)とした昔話を読んでいるような印象。でも、解決編は圧巻。(4月)

■『夜の蝉』北村薫(創元推理文庫)

 三つのお話の中では「六月の花嫁」が明るい話なので、好き。表題作も、自分自身が二人姉妹なので、考えさせられる部分が多かった。
 本の裏表紙に「読後の爽快感を誘う」とあるが、爽快っていうのとは少し違うような。むしろじんわりと心にしみ入る話だと思った。(3月)

■『臨機応答・変問自在』森博嗣(集英社新書)

 これが理系の大学生の質問かいなと思えるものもちらほらあって面白い。森さんの一言回答はシンプルで鋭い。さすがだ。(4月)

■『ローマ帽子の謎』エラリイ・クイーン(創元推理文庫)

 読み始めてから、何ヶ月かかったことやら(笑)。でもようやくこの翻訳文体に慣れた。
 帽子一つで、よくぞこれほどまでの長篇に仕立て上げたな、と、妙なところで感心。犯人の周到さも、なかなか。(9月)

■『ロシア紅茶の謎』有栖川有栖(講談社文庫)

 謎解きよりもキャラクタよりも、私が一番心奪われたのは「決めの一文」。ラストの一行がカッコいい(あえてどの短編かは、云わずにおこう)。
 読者への挑戦が挟まれた「八角形の罠」(この話には『八角館の殺人』というものが出てくるのだ(笑))は、真剣に取り組み、八割がた正解。なので、満足(^^)。(9月)

■『嗤う伊右衛門』京極夏彦(中央公論社)

 テンポのいい、流れるような語り口。気分はすっかり、江戸の町中にタイムスリップ。
 四谷怪談が下敷きになった話と聞かされていたのだが、いわゆる怪談とは全く趣が違う。しかしながら、この世で最も怖いのは、お化けでも妖怪でもなく、量り知れない「人の心」なのかもしれないと思った。哀れだが、心に残る話。ものすごく良く出来た時代劇を見たって感じ。(6月)

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