mihoroの読書記録(2002年)

2002年に読んだ本の中で面白かったものをあげてみました(ミステリ・ホラーが中心です)。
あらすじは敢えて書いてありません。本の裏表紙などに書かれているものを参考にして下さい。
ネタバレはしてませんのでご安心を。書名の五十音順に並んでいます。


■『悪夢制御装置』(角川スニーカー文庫)

 圧倒的な重さで迫ってきたのは、乙一さんの「階段」。読んでいて息苦しくなるほど。読了後、アンソロジーの題名を思い出して大いに納得。なるほど、まさしく悪夢だわ。(11月)

■『泡亭の一夜』泡坂妻夫(新潮文庫)

 泡坂さんの創作落語や人情噺が収められた一冊。なんと幕間では紙上で自作の奇術も公開! まさに寄席にいる気分(行ったことないけど)。
 粋で楽しく、心の余裕が感じられて心地よかった。人情噺は推理作家ならではの展開も。エッセイも味わい深い。(10月)

■『ウエスト・ウイング』エドワード・ゴーリー(河出書房新社)
   →『ギャシュリークラムのちびっ子たち』

■『うろんな客』エドワード・ゴーリー 柴田元幸・訳(河出書房新社)
   →『ギャシュリークラムのちびっ子たち』

■『エロティシズム12幻想』津原泰水監修(講談社文庫)

 執筆者が豪華で内容も濃い(官能だし)。全部読んだらどっと疲れた(笑)。
 お目当ての我孫子さんは、内容はアケスケだが(笑)女の子一人称の語り口の上手さはさすが。菅さんの和服の描写のなんと美しく艶かしいこと。津原さんは改行がまったくないのに何でこんなに読みやすいのか(謎)。南さんや森さんの作品もわりと好み。
 で、実は一番驚かされたのが、有栖川さん。内容的にはきれいごと過ぎるきらいもあるんだけど、文章の美しさに酔わされた。(5月)

■『斧』D.E.ウェストレイク(文春文庫)

 題名とシンプルな装幀に惹かれて衝動買いした一冊(笑)。
 怖さと滑稽さは紙一重、そんな印象。主人公が致し方なく殺人を重ねてゆく様が、妙にリアルで面白いやらゾッとするやら。
 ラストは予想外。なるほど、こういうのもありか〜、ふっふっふ。(7月)

■『女囮捜査官』シリーズ 山田正紀(幻冬舎文庫)
 
(全5巻 副題は「触覚」「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」)

 どぎついシーンもあるが、ミステリとしての企みは盛り沢山。途中何度「ええっ!?」と声をあげたことか。
 正直云って、「生まれながらの被害者」という設定にはさほど惹かれなかった。書き方が荒っぽいと感じるところもあったし、各巻の終り方はちょっと唐突かな。
 でも、そうしたアラを凌駕する内容の豊富さ。特に意外な犯人にはびっくり。また、真相に到達するまでに二転三転するストーリー展開もお見事。(7月)

■『オンリー・ミー 私だけを』三谷幸喜(幻冬舎文庫)

 脚本家・三谷幸喜さんのエッセイ集。照れ屋のくせに出たがり。人に好かれたい気持ちが人一倍強く、つい大風呂敷を広げて自分の首を絞め、結局出来なくてあちこちに迷惑をかけてしまう‥読んでてなんか嫌〜な感じがしたのは、何のことはない、自分とそっくりだから(苦笑)。
 一方、三谷さんは抜き差しならない状況に追い込まれた人間がしでかすことを「面白い」と感じる人。でも私は「ハラハラ」や「イライラ」を感じてしまう、その部分は少し違うな。
 第3章の「大演劇論」が特に面白かった。(11月)

■『鏡の中は日曜日』殊能将之(講談社ノベルス)

 何か仕掛けがあるに違いないと構えて読んでいたにもかかわらず、第三章の展開には幾度もびっくりさせられた。フランス語は分からないけど、中盤の動機もなかなか。「ぼく」の一人称で語られる第一章の雰囲気、好きだなあ。
 館シリーズに対する好意的なオマージュか、はたまた続編がなかなか出ないことへの挑発か‥綾辻ファンとしては、少々複雑な気持ち。(4月)

■『神狩り』山田正紀(ハルキ文庫)

 私のセコい頭で想像していた「SF」を遥かに超えるものを見せつけられた感じ。そもそも「神を狩る」なんて発想、どこから出て来るんだろう、すごいや。(5月)

■『神様のボート』江國香織(新潮文庫)

 特に終盤、かなしくてたまらなかった。幸せとは何と主観的なものなのかとか、母から娘へと受け継がれていくものとか、いろいろと思いながら読んだ。はまった。(7月)

■『君の夢 僕の思考』森博嗣(PHP研究所)

 森さんの本は私にとって「哲学書」だ。珠玉の言葉とメッセージ、さらには写真まで堪能できるステキな一冊。こういう企画を待っていた。(6月)

■『ギャシュリークラムのちびっ子たち』エドワード・ゴーリー 柴田元幸・訳(河出書房新社)

 こんな悲惨なアルファベット・ブックがあるとは!でも、なぜか可笑しい。絶妙なバランスのブラック・ユーモア。やたら細密なペン画も、どことなく抜けている感じでいい。日本語訳もとても凝っている(きちんと韻を踏んでいるし)。
「フィクションと分かった上で邪悪さを楽しむ」って感覚は、人が次々殺されるミステリを楽しむことと相通じるような気がした。
『うろんな客』の滑稽さも好き。『不幸な子供』は救いようのない不幸の連続だが、ここまで徹底していると爽快かも。(6月)

『ウエスト・ウイング』はミステリ好きの人にぜひ読んでほしい‥と云っても、文章は一切なく絵だけなのだが。なのにミステリの短編集を読んだような味わいがある。(11月)

■『議論の余地しかない』森博嗣(PHP研究所)

 森さんの小説から抜粋した名言&フォト集。ひとつひとつの言葉に対する森さんのコメントが秀逸。巻末の「Photograph index」も大好き。鋭い短編小説の題名みたい。(12月)

■『暗いところで待ち合わせ』乙一(幻冬舎文庫)

 目の見えない女性の家に、警察に追われる男が密かに隠れ潜んで‥。設定だけ聞くとサスペンスのようだが、この著者の手にかかるとまったく違う色の物語になってしまう。
 胸が暖かくなったり涙ぐんだり、かと思うとびっくりしたり。特に後半の展開は予想できなかった。(5月)

■『グラン・ギニョール城』芦辺拓(原書房)

「ディス・イズ・探偵小説」という趣。海外の古典に親しんだ人には、嬉しい一冊だろう。海外の古典を知らない私は、「グラン・ギニョール」と銘打つからにはもっと、怪奇っぽい雰囲気を十二分に味わわせてほしかったな、と思ってしまったが。
 古城での事件と探偵・森江春策の周辺で起こる事件とが交錯してゆく様は、見事。(4月)

■『黒いトランク』鮎川哲也(創元推理文庫)

 トリックは入り組んでいるが、物語自体は気持ちのいいほどシンプルだ。謎が徐々にほどけていく過程が実に論理的。特に、最後まで残るトランクの謎がいい。
 古さを全く感じさせないのもさすが。とても読みやすかった。(2月)

■『黒い仏』殊能将之(講談社ノベルス)

 世間では賛否両論らしい本書だが、私は楽しめた。伏線もきちんと張ってあるし。
 軽い語り口は相変わらず。よく知らない事柄が引用されてても、気にならずにさくさく読めるのは、前作『美濃牛』と同じ。(4月)

■『幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート 倉知淳(東京創元社)

 いやあ、楽しい楽しい。殺人はひとつもなし、他愛ない日常の謎系の物語だが、ちゃーんと伏線が張ってあって、猫丸先輩の「解答」を聞くと、なるほどと思わさせられる。でも、物語の核は謎解きじゃなくて、ちょっと視点を変えると物事はこんなにも違って見えるものなのか、って部分なのではないかな。
「猫の日の事件」のクライマックスシーンは、ひっくり返って笑った。「たたかえ、よりきり仮面」の活き活きしたところも大好き。(10月)

■『建築探偵 東奔西走』藤森照信・増田彰久(朝日文庫)

 藤森さんの語り口が庶民的で、それはもう爆笑もの。西洋館にまつわる意外な話、驚きの話、笑える話、さまざまな裏話がとても楽しい。事実は小説より奇なり。
 増田さんの写真はくっきりとして迫力がある。(4月)

■『凍える島』近藤史恵(東京創元社/とっくに文庫化されてます)

 まろやかな文体がとても心地よい。主人公の心理描写も自然な感じ(終盤以外は)。「コオヒイ」「セエタア」などの妙な(?)カタカナ表記は好きになれないけれど。
 ただ、この結末は好き嫌いが分かれるかも。私は、読み終わった時に納得しきれない部分が残った。(2月)

■『殺意の時間割』(角川スニーカー文庫)

赤川次郎「命の恩人」冒頭の引っぱり方なんて上手いなあ。読後感もいい。
鯨統一郎「Bは爆弾のB」この調子で果たして『C』はあるのか?
近藤史恵「水仙の季節」流れるような文章が上手い。題名はちょっと平凡かも。
西澤保彦「アリバイ・ジ・アンビバレンス」二人の会話で推理が進んでいく様が面白い。
はやみねかおる「天狗と宿題、幼なじみ」油断していた。やられた〜。夏休みらしい好編。(8月)

■『殺人鬼の放課後』(角川スニーカー文庫)

 スニーカー・ミステリ倶楽部のアンソロジー第二弾。相変わらず豪華な執筆陣。
恩田陸「水晶の夜、翡翠の朝」ガラスのように鋭利な透明感が心地よい。謎解きも魅力的。
小林泰三「攫われて」残虐だけど、奇妙な味わい。
新津きよみ「還ってきた少女」そつなくまとめたなという印象。
乙一「SEVEN ROOMS」設定からして異様。最初から最後まで目が離せない、著者ならではの物語。私はこれが一番好き。(5月)

■『さみしさの周波数』乙一(角川スニーカー文庫)

 年の最後に読んだ本がこれで、本当に良かった。せつなさ、怖さ、救い、それらが目一杯つまってもう、回りに人がいなかったら泣いてました、私。(12月)

■『三人のゴーストハンター』我孫子武丸・牧野修・田中啓文(集英社)

 ユニット「あ・た・ま」の競作。三者の個性が相乗効果をもたらし、実に面白い作品になっている。破天荒なエンターテインメントの田中作品が、私は一番楽しめた。(9月)

■『自殺サークル』古屋兎丸(ワンツーマガジン社)

 森さんの日記本『封印サイトは詩的私的手記』(幻冬舎)のイラストの人はどんな漫画を描くのかな‥と、何気なく手にしたところ、その完成度の高さにびっくり。この衝撃は、かつて大友克洋さんの『童夢』(双葉社)を読んだ時と似ているような。凄いよ。(3月)

■『じつは、わたくしこういうものです』クラフト・エヴィング商會(平凡社)

 ありそうでなさそうな架空のものをテーマにステキな本を創り出してくれる、クラフト・エヴィング商會。本書は初めてモノではなく人が題材になっていて、さらなる物語の広がりが感じられた。大評判の「シチュー当番」はもちろんのこと、「警鐘人」が好きだな。じゃーん!(5月)

■『十二宮12幻想』津原泰水監修(講談社文庫)

 西洋占星術の12の誕生星座、それぞれの星のもとに生まれた12人の作家たちが、自分と同じ星座を持つ女性を主人公に競作するという凝った企画。鏡リュウジさんによる星座ごとの解説も楽しめる。
 星座の特徴が良く出ていていいなと思ったのは、図子慧さんと森奈津子さんの作品。早見裕司さん、津原泰水さん、飯田雪子さんは文章がとてもすてき。特に津原さんの文章は、破綻してるんだか昇華してるんだか分からない、でも不思議な魅力があった。こういうオリジナリティー、好きだなあ。(6月)

■『少年たちの密室』古処誠二(講談社ノベルス)

「誰が、どうやって殺したのか」という、オーソドックスではあるが力強い謎があり、トリックもあり、伏線にも唸らせられた。一級の本格ミステリ。と同時に、背景にある様々な問題は、どれも深刻で打ちのめされる。でも、わずかではあるが希望を感じさせるところが、この作者ならでは。(1月)

■『過ぎ行く風はみどり色』倉知淳(東京創元社)

 読み終わった後、思わず拍手。不可能犯罪も魅力的だし、「あるトリック」には本当にびっくり。前を読み返してみると、なるほど、上手く書いてあるなあと感心した。読後感いいですよ。(10月)

■『生存者、一名』歌野晶午(祥伝社文庫)

 ネット上でわりあい好評だった本書。冒頭から「あれ?」と思わされ、かなり構えて読んでいたにもかかわらず、ラストは予想外の展開。あれが伏線だったのか。
 最後の一行も思わせぶり。(7月)

■『続巷説百物語』京極夏彦(角川書店)

 読み終えた今、夢から醒めてしまったような淋しさで一杯。
 登場人物の過去が明らかになったり、思わぬ人物や出来事が実は密接に絡んでいたり。少々荒技と感じる部分もあったが、人物それぞれが実に魅力的だし、心に残る場面がいくつもあった。(2月)

■『奪取』真保裕一(講談社)とっくに文庫(上下巻)になってます

 題名通り「Dash!」で読んでしまった。ものすごい情報(取材)量、スピーディーな展開、まるで劇画だ(褒めてます)。
 第三部のクライマックスシーンが圧巻。ページを繰るのももどかしいという感覚はそうそう味わえるものではない。(8月)

■『たったひとつの〜浦川氏の事件簿〜』斉藤肇(幻冬舎)

 あちこちにちらばっているように見えた物語が、煙のようにするするとひとつの箱の中に吸い込まれていって、ぱたんと蓋が閉じてしまう、そんな印象。読み終わった後、思わず前の方のページを繰ってしまうこと、必至。題名がいいなあ。(3月)

■『月の砂漠をさばさばと』北村薫(新潮文庫)

 親が子を、子が親を、相手の心を思いやる優しさが胸にしみた。お子さんがいらっしゃる方は、親子で読むのもいいかも。
 でも北村さんがお父さんだったら、心の中を全て見透かされてしまいそうで、ちょっとコワイな(笑)。そのくらい、母と子の心情が的確に描かれている。(7月)

■『掌の中の小鳥』加納朋子(創元推理文庫)

 色とりどりの綺麗なビーズがそこここに散らばっていて、でもそれらは実は、透明な糸で繋がっている‥そんな印象を持った。伏線の妙、人を見る目の確かさ。日常を舞台に、これだけあざやかな物語を紡ぎ出せるとは。感服。(1月)

■『どすこい(安)』京極夏彦(集英社)

 これは面白かった!笑った!「でぶがぞろぞろ出てくるばかばかしい話」ではあるのだが、どうしてなかなか凝った「メタな構成」ではないですか。
 文章にリズムがあるのがいい。端的。簡潔。好きだなあ、京極さんの文章。(10月)

■『鳥頭紀行 ジャングル編』西原理恵子・勝谷誠彦(角川文庫)

 読みやすさでは圧倒的に親本(スターツ出版)に軍配、文庫では肝心のサイバラ漫画が縮小されすぎなんだけど、親本にない写真もいくつか載っていたし、鴨ちゃんの解説がすごくいいよお。なんか感動。(12月)

■『猫丸先輩の推測』倉知淳(講談社ノベルス)

 題名が「推理」ではなく「推測」ってところがミソ。でも伏線ばっちり、解決もなかなか膝を打つ代物でとても楽しめた。語り口も達者だし、猫丸先輩のキャラもいい。神出鬼没、傍若無人ながら、実は結構公平なのだ、彼は。
 唐沢なをきさんのイラストがこれまた絶品。(9月)

■『不幸な子供』エドワード・ゴーリー 柴田元幸・訳(河出書房新社)
   →『ギャシュリークラムのちびっ子たち』

■『不在証明崩壊』(角川文庫)

 実力派によるアンソロジーで、安心して読めた。私が好きなのは、倒叙ものの「死体の冷めないうちに」、トリックが冴える「三つの日付け」、ラストに余韻のある「シャドウ・プレイ」。(6月)

■『ぼっけえ、きょうてえ』岩井志麻子(角川ホラー文庫)

 頭ではなく、はらわたに直接響いてくるような物語。どれも濃い。
「ぼっけえ、きょうてえ」岡山弁がいい味を出している。題名からして秀逸。
「密告函」これが一番怖かったな、私は。
「あまぞわい」山ではなく海、漁村の物語というところが異色かも。
「依って件の如し」陰惨な内容だが淡々としていて、意外に読後感が良かった。(7月)

■『本陣殺人事件』横溝正史(角川文庫)

 文庫にして200ページ足らずの分量。しかし、内容は濃く無駄が全くない。たくさんの小道具とそれに関わる人物とが、ひとつにつながった時のカタルシスといったら‥!
 プロットはとても論理的なのに堅苦しさを感じさせないのは、語り口が柔らかであることと探偵のお人柄のせいか。これだけ好人物の名探偵も珍しいのでは。
 他の2編もあっと驚かされた。伏線がきちんと活きている。これぞ本格。(5月)

■『まほろ市の殺人』(祥伝社文庫)

 架空の都市「真幌市」を舞台にした、4人の作家による競作。まずはこの「真幌市」の設定だけで、かなり楽しめる。

『まほろ市の殺人 春 無節操な死人』倉知淳
 一番感心したのは、動機。人間がよく描けている。相変わらず伏線も活きているし。
 ただ、猫丸先輩という強烈なキャラを知っているせいか、主人公や探偵役の存在感が今一つインパクトに欠けて物足りなかった感も。

『まほろ市の殺人 夏 夏に散る花』我孫子武丸
 怖さと切なさの絶妙なバランスがいい。読後、一番心に残った。
 何気ない日常の描写がとても上手い。心理描写も自然な感じ。

『まほろ市の殺人 秋 闇雲A子と憂鬱刑事』麻耶雄嵩
 トリックは面白かった。連続殺人のミッシングリングと真幌キラーの正体、手がかりは殺人の数だけたくさんあるので、挑戦してみてはいかが。

『まほろ市の殺人 冬 蜃気楼に手を振る』有栖川有栖
 完全犯罪と思われたものがどう転んでいくかが見物。サスペンスも充分。
 ただラスト、謎が解けた時、夢から醒めてしまったような喪失感が。これはあくまでも私の好みの問題なのだが。(6月)

■『幻少女』高橋克彦(角川文庫)

 掌編集。テレビドラマ「世にも奇妙な物語」のテイスト。怖いものあり、奇妙なものあり、暖かいものあり‥といった按配。一人称の語り口が実に上手いと思った。欲をいえば、女性が主人公の物語も読んでみたかったな。
 特に心に残ったのは「恋の天使」「明日の夢」「廃虚の天使」「心霊写真」「桜の挨拶」「雪明かりの夜」。ラストで「おっ」と思わせられる物語が好き。(2月)

■『三日月島奇譚』我孫子武丸・田中啓文・牧野修(チュンソフト)

 三者三様、作風バラバラ(笑)。我孫子さんはホラーとミステリがかった青春小説風、牧野さんは聞き取り調査資料風、田中さんはゲームブック風(しかもシルエット付き(笑))。
 現実と虚構の境目が分からなくなるような妙なリアリティのある牧野作品が怖かった。田中さんは、相変わらずの駄洒落炸裂(わっはっは)。この二人に挟まれると、我孫子さんのがフツーに見えちゃいますね。(10月)

■『ミステリ・オペラ』山田正紀(早川書房)

 著者ならではの壮大な物語。暗号、ダイイングメッセージ、密室、見立て殺人、入れ替り‥ありとあらゆる「探偵小説」の要素が、これでもかこれでもかと出てきて、それらが終盤次から次へと解決してゆく様は圧巻。歴史との絡みも深みがあっていい。「この世には探偵小説でしか語れない真実というものがある」は名言だ。
 しかしながら私が一番魅力を感じたのは、従来の「本格ミステリ」という枠組みに収まりきらない部分。ロマンがある。広がりを感じさせる。
 小説の全てが盛り込まれている装幀もすばらしい(画・生頼載義)。(5月)

■『密室レシピ』(角川スニーカー文庫)

 折原一、霞流一、柴田よしき、泡坂妻夫4氏によるアンソロジー。全体的にユーモア・ミステリの色合いが濃い中で、泡坂さんの作品が文章、内容ともに群を抜いていたと思う。
 スニーカーミステリ倶楽部の企画は今後も続くようで、楽しみ。(5月)

■『もつれっぱなし』井上夢人(文春文庫)

 6編とも男女の会話のみで成り立っているので、あっという間に読了。一見さらっと書かれているこの小説、実は小説技法としては相当に高度だということは、巻末で小森健太朗さんが解説されている。
 一番好きだったのは「四十四年後の証明」かな。話はベタで結末の予想はつくのだが、不覚(?)にも感動してしまった。(8月)

■『邪馬台国はどこですか?』(創元推理文庫)鯨統一郎

 どの話も「おおっ!」と驚かされるツボがある。壮大なほら話なのだろうが、それにしては妙に説得力があって、目からウロコが落ちたような気にさせられてしまう。文章はすごく上手いってわけでもないし、女性キャラは鼻につくし‥それでも作者の意のままに操られてしまった感じ。楽しかった。(8月)

■『山伏地蔵坊の放浪』有栖川有栖(創元推理文庫)

 作者の云う「派手めのトリック」は、ちょっと突拍子もないと思ったが(ことごとく真相を見破れなかった莫迦な読者のたわごとと聞き流して下さい(笑))、全編軽妙な感じで楽しめた。聴衆も、ただ話を聞くばかりでちっとも活躍の場がないのだが、これはこうした系統の探偵小説のお約束なのかな。
 英題がカッコいい。(8月)

■『よもつひらさか』今邑彩(集英社文庫)

 タイトルと装幀に惚れて手にした一冊。
 ホラーだが、ミステリの要素も十二分にある。構えて読めば結末の予想もつかないことはないのだが、絶望感で終わる類いのお話が特に良かった。怖さを満喫。(11月)

■『りら荘事件』鮎川哲也(講談社文庫)

 連続殺人! トランプのカード! わくわくしながら読み進んた。鮎川さんはとっても親切で、登場人物をして解決の糸口となる点をすべて教えてくれるのだが、それでもやっぱり真相は分からなかった。
 大技一本ではなく、小さいトリックがいくつもいくつも重なりあって事件を形作っている感じ。謎がほどけていく過程は「そうだったのか!」「うわ、そう来たか!」の連続。面白かった〜。(10月)

■『臨機応答・変問自在2』森博嗣(集英社新書)

 前書ほどの鋭さはないが、やはり楽しめた。森さんのシャープな回答が相変わらず冴えている。真面目に、正直に、時々かわして。そこが最大の読みどころだろう。(10月)

■『六番目の小夜子』恩田陸(新潮文庫)

 まず「サヨコ伝説」の設定が秀逸。文化祭のシーンは鳥肌が立った。そして、この物語は最終的にはどこへ着地するのだろう‥と、どきどきしながら読んだ。
「学校」というのは実は特異で閉じた空間なのだなと再認識。若くて輝いていて、未熟で刹那的で‥そんな高校生たちも魅力的だった。(8月)

■『私が彼を殺した』東野圭吾(講談社文庫)

 一気読み。刑事が「犯人はあなたです」と指摘するところで終わるというのは事前に知っていたのだが、途中の展開が意外だった。容疑者はたった三人なのに推理は難しい。
[推理の手引きを読み終えて]加賀刑事のあのセリフは、そういうことだったのか。やられた、悔しい!(7月)

63冊

list
home map
SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ 掲示板 ブログ