mihoroの読書記録(2003年)

2003年に読んだ本の中で面白かったものをあげてみました(ミステリ・ホラーが中心‥とも云えなくなってきたな)。あらすじは敢えて書いてありません。本の裏表紙などに書かれているものを参考にして下さい。
ネタバレはしてませんのでご安心を。書名の五十音順に並んでいます。


■『蘆屋家の崩壊』津原泰水(集英社文庫)注文

 これは濃い、お腹いっぱい。怖さと可笑しさ双方を満喫した。
 幻想譚なのに自分が体験したかのごとくずっしり身にこたえる感覚。解説の皆川博子さん曰く「体験したことのない読者も、明瞭にその感覚を理解し、共通認識を持ちうる」、作者の巧さ。「水牛群」の冒頭「インク罎」の例えなんて、絶品。(9月)

■『あやしい遊園地』江坂遊(講談社文庫)注文

 ショートショート冬の時代と云われている昨今、これ専門に書いている著者は貴重な存在。
 時に関西弁を交えた柔らかな語り口が魅力。予想と少しずれたところに着地するのもいい感じ。「ホラーハウス」なる章に収められた、ゾッとさせられる作品が特に気に入った。終盤の「秋」の味わい深さも心に残った。(9月)

■『暗色コメディ』連城三紀彦(文春文庫)注文

 精神を患った登場人物が次々に出て来る前半は、現実なのか妄想なのか良く分からない怪しい雰囲気(でも情景描写は絶品!)。それが死体が転がり出すあたりから俄然話は面白くなる。犯人は「やっぱりこいつか」と思ったけど、終章のカタルシスはなかなか。幕の引き方も見事。(10月)

■『伊藤ふきげん製作所』伊藤比呂美(新潮文庫)注文

 伊藤さんの育児エッセイは私のバイブル。我が家の子供たちもそろそろ思春期に差しかかる時期だが、この本が傍らにあれば乗り切ってゆけそう。強い味方ができた(^^)。(12月)

■『今はもうない』森博嗣(講談社文庫)注文

 ノベルス刊行時の帯の惹句「結末は決して人に語らないで下さい」の意味するところがよく分かった。途中、少々冗長な感もあったが、読後感はいい。S&Mシリーズ、順を追って読んできて正解だったな。(9月)

■『色を奏でる』志村ふくみ(文)・井上隆雄(写真)(ちくま文庫)注文

 染色と機織り一筋に生きてきた著者の毅然とした文章は凄みすら感じられる。そして、自然の色をそのままに写し取ったような織物の何と素晴しいこと。最も心に残ったのは「藤原の桜」のエピソード。(8月)

■『英国庭園の謎』有栖川有栖(講談社文庫)

 うーん‥アイディアはどれも素晴しいんだけど、私が有栖川さんの短編に期待している「幕切れの鮮やかさ」という点では少々物足りなかったなあ。(6月)

■『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎(新潮文庫)注文

 前半部分は、現実社会と微妙にずれている舞台設定にとまどったせいか読むのに多少時間がかかったが、ところがどっこい、最後まで読んだら見事にミステリであった。あの人物にも、あの出来事にも「役割」がちゃんとあったのか。解説の吉野仁さんの言葉を借りれば「こんなミステリー読んだことがない」、寓話のようでもあり、実に不思議な読書体験だった。(12月)

■『贈る物語 Mystery』綾辻行人・編(光文社)

 まず、装幀が素敵。ソフトカバーの単行本は読みやすいね。
 クイーン『暗黒の館の冒険』は、終盤のたたみかけるような展開が楽しめた。カー『妖魔の森の家』は再読だったが「面白い本格は一回目より二回目が面白くなります」という北村薫さんの言葉を思い出した。ノックス『密室の行者』の無駄のない短さも好き。国内では泡坂妻夫『病人に刃物』の伏線の妙、鮎川哲也『達也は笑う』のフェア・プレイぶりに脱帽。
 綾辻さんの書かれた作品冒頭の紹介文や収録作解題も参考になった。冷静に綴られた評論文はちょっと新鮮だったかも。(1月)

■『崖の館』佐々木丸美(講談社文庫)注文

 涼子の一人称がどうも甘ったるくて初めの頃は正直、読みずらかった。でも、いくつかの事件の真相が最後にすべて明かされる段は、圧巻。特に犯人の独白は、読みごたえあり。(11月)

■『愚者のエンドロール』米澤穂信(角川スニーカー文庫)注文

 綾辻ファンが「ほよよっ」と思う箇所をふたつ発見、まあそれは置いといて。
 唸らせられたのは五章以下。すべての伏線に意味があるのが素晴しい。一級のミステリであると同時に、主人公のほろ苦い成長譚でもあるのだ。拍手拍手。(11月)

■『くらのかみ』小野不由美(講談社・ミステリーランド)注文

 座敷童子は誰なのか、後継ぎ候補を狙う犯人は誰なのか、謎の魅力はもちろんのこと、大人や子ども、それぞれの立場の人々の心情を見事に描き分ける手腕はさすが小野さん。ミステリ好きにはもちろん、子どもたちにもぜひ読んでほしいと思わせる、質の高い作品。(8月)

■『結晶物語 水が教えてくれたこと』江本勝(サンマーク文庫)注文

「すべての物は波動を持つ」という考え方は理解できるが、その波動の正体と結晶化に与える影響のメカニズムの説明がすっぽり抜けてしまっているので、なんだか宗教じみた印象。でも、言葉の波動がこれだけ水に影響を与えるのなら、自分の言葉にもっと責任を持たなければいけないと思った。人を活かすも殺すも言葉次第。(8月)

■『建築探偵 雨天決行』藤森照信・増田彰久(朝日文庫)

 家の数だけドラマがある。東京駅の歴史は圧巻。(4月)

■『建築探偵 神出鬼没』藤森照信・増田彰久(朝日文庫)注文
■『建築探偵 奇想天外』藤森照信・増田彰久(朝日文庫)注文

 このシリーズはホントに楽しい。西洋館という”異空間”の裏には、トンデモナイ大金持ちとか、トンデモナイ夢追い人とか、トンデモナイ職人とかの逸話がごろごろ。機能第一の無個性な家も住めば都だが志が感じられない。愛すべき無駄(芸術ともいう)が失われていくのは寂しい限り。(8月)

■『GOTH リストカット事件』乙一(角川書店)

 研ぎ澄まされたナイフのように無駄のない文章。「乙一はこんな高みにまで来てしまったのか!」驚きと喜びで胸がいっぱい。「とにかくミステリをやろう」という作者の意図のもとに書かれた「暗黒系」と「リストカット事件」にはかなり”本格”を感じた。
 個人的には「記憶」が好き。それにしても低温やけどをしそうな作品集。本格ミステリ大賞受賞は当然の結果だと思う。(6月)

■『子どもの王様』殊能将之(講談社ミステリーランド)注文

 子ども視点での語り口が自然で巧いな。子どもの王様の正体は読み始めてすぐに分かった。ペンキの1件は、素直に感心。そしてこの結末は‥正義の味方は悪を滅ぼしました、めでたしめでたし‥とはならない現実。苦いけれど、その分心に残った。
 著者が自らの子ども時代を語ったあとがきが、すごくいい。(11月)

■『サマー・アポカリプス』笠井潔(創元推理文庫)注文

 二度殺された死体、黙示録の見立て‥魅力的な謎の数々がひとつ残らず解明される終盤は圧巻。伏線は意外とあからさま。でも、一番「おおっ」と思ったのは、カケルが積極的に事件解明に関わろうとしなかった動機が明らかになった時。
 酷暑のパリの描写が心に残った。笠井さんの文章、好きだなあ。(9月)

■『少年たちの四季』我孫子武丸(集英社文庫)

 主人公たちの心理描写の巧みさは、さすが我孫子さん。ミステリとしても、少年少女の辛口の成長物語としても秀逸だ。
 ただ‥こういう登場人物でこういう舞台設定だと、なんだか乙一さんの筆致で読みたくなっちゃうんだよなあ。これは単なる私のわがままなんだけど。(2月)

■『白い部屋で月の歌を』朱川湊人(角川ホラー文庫)注文

 優しく柔らかな文章が心地よい。「白い部屋〜」は、”月が啼く”という言葉の美しさ、静謐なイメージにすっかり心を奪われた。「鉄柱」は、死生観についてしみじみ考えさせられる秀作。「死ぬ時は誰でも、ひとりだ」なんて云うけど実は、周りの人に何の影響も与えずにひとりで死ぬなんて不可能なのだ。(11月)

■『ZOO』乙一(集英社)注文

 悲惨だが前向き、残酷だが透明、乙一にしか描けない物語が10編も入っていて、読みごたえあり。ミステリ的仕掛けも随所で楽しめた。残念だったは、あとがきが収録されていないこと。(11月)

■『スウェーデン館の謎』有栖川有栖(講談社文庫)

 トリックにも驚いたが、何より全編にあふれる叙情的な雰囲気が好き。(4月)

■『それゆけ!マル廃ゲーマーズ』谷山浩子(角川書店)

 てっきりテレビゲームの話かと思いきや、もっとシンプル(ゲーム機不要)なゲームの紹介。気分は修学旅行のノリ。昔盛り上がった「主犯共犯」を思い出した。(4月)

■『探偵ガリレオ』東野圭吾(文春文庫)注文

 工学的技術や装置をミステリに結び付けるところがすごいと思った。でも一番印象に残ったのは、1話目のあるミスディレクション。冒頭の伏線を見破れなかったのは悔しかったな。
 しかし、天才物理学者?これっくらい大学の先生だったら普通じゃないの?(笑)(9月)

■『血文字パズル』(角川スニーカー文庫)

 テーマはダイイング・メッセージ。でも、テーマそのものの扱いに「おっ」と驚かされた作品は、残念ながらなかった。
 有栖川有栖「砕けた叫び」‥有栖川さんの短編らしいラストの締めくくり方。上手いな。
 太田忠司「八神翁の遺産」‥探偵のある性質については、私も以前考えたことがあったので「先を越された」と思った。
 麻耶雄嵩「氷山の一角」‥ミステリらしいおふざけが好き。
 若竹七海「みたびのサマータイム」‥語り口はこれが一番好き。積読になってる『クール・キャンデー』も読まなくちゃ。(3月)

■『2分間ミステリ』ドナルド・J・ソボル(ハヤカワ・ミステリ文庫)注文

 推理ゲーム本の類いには、普段はあまり触手が動かない私だが、これは別格。なにしろあの「少年たんていブラウンシリーズ」の作者。ああ、懐かしい!思いっきり楽しんだ。(11月)

■『法月綸太郎の功績』法月綸太郎(講談社ノベルス)

 粒揃いの見事な短編集。仮説がぱたん、ぱたんと論理的に突き崩されていって、最後の最後に真相が姿を表す、その過程がたまらなくいい。(7月)

■『法月綸太郎の新冒険』法月綸太郎(講談社文庫)

 一見筋の通っているように見える事件が、がらりと様相を変える瞬間が面白い。5つの短編の中では「身投げ女のブルース」が一番好き。「リターン・ザ・ギフト」の理由付けも面白かった。(1月)

■『法月綸太郎の冒険』法月綸太郎(講談社文庫)

 冒頭に収められた「死刑囚パズル」が凄い!論理の網をジリジリと狭めて、犯人をあぶり出していく様が実に見事。本格だ本格だ〜(大騒ぎ)。(1月)

■『バイバイ、エンジェル』笠井潔(創元推理文庫)

 読んでいる間中、とっても幸せだった(「カケルに萌え〜」とはならなかったが(笑))。首なし死体にわくわくし、疑問点が次々と氷解するさまにゾクゾクし、読み終えた時は本当に感動。本格としても小説としても、これはかなり好きかも。(2月)

■『光と影の誘惑』貫井徳郎(集英社文庫)注文

 私にとっての貫井作品は「御影石」。重くて、冷たい。打ちのめされる、しんどい‥でもそれが魅力。思わず声をあげそうになったのが表題作。
 一方、どうにも私の肌に合わなかったのが題名の付け方。4編が4編とも、何でこんなぼやけた題にするかなあ。(10月)

■『秘密 トップシークレット (1)(2)』清水玲子(Jets comics)注文

 美麗な絵と物語の迫力に圧倒された。胸に迫る切なさも健在。ミステリ者にもおススメ。(12月)

■『氷菓』米澤穂信(角川スニーカー文庫)注文

 過剰なものがひとつもない、シンプルなお話。でもそれがとっても好き。そしてこの題名は、秀逸。たとえ言葉遊びの域であっても。(10月)

■『ブラジル蝶の謎』有栖川有栖(講談社文庫)

 印象に残ったのは表題作と「人喰いの滝」。前者は殺人現場の蝶の群れが、後者は犯人を追い詰める場面が、一葉の写真のごとくくっきりと鮮烈に心に残った。「蝶々がはばたく」のラストもなるほど‥と唸らせられた。(5月)

■『ぼくんち』西原理恵子(小学館)

 この本が傍らにあれば、どんなことがあっても笑って生きてゆける、そう思える凄い本。(4月)

■『仄暗い水の底から』鈴木光司(角川ホラー文庫)注文

 映画の原作にもなった「浮遊する水」(題名はイマイチだけど)が秀逸。「海に沈む森」とエピローグは、感動した。「ホラーはダメ」と読まず嫌いしている人、先入観を捨ててチャレンジしてみては。(8月)

■『本棚探偵の冒険』喜国雅彦(双葉社)注文

 古本にまつわる爆笑エッセイ。いやー、楽しかった。文章巧いなあ、喜国さん。豆本、作ってみようかな。あとポケミスマラソンも(笑)。(9月)

■『真鍋博のプラネタリウム』真鍋博・星新一(新潮文庫)注文

 白と黒のコントラストが絶妙なシャープな絵は、星作品にぴったり。星さんのまえがきと真鍋さんのあとがきに心が暖かくなった。(9月)

■『間取りの手帖』佐藤和歌子(リトル・モア)注文

 実在する様々な部屋の間取りを羅列しただけの本なのだが、そのコメントが秀逸。思わず笑ってしまう。綾辻ファンとしては、やはり「033 水車系」に反応(笑)。(8月)

■『MISSING』本多孝好(双葉文庫)

 最初はちょっと退屈だったが、「あ、そうか!」と思わせてくれる作品はいい。「祈灯」「蝉の証」が個人的には好き。特に「蝉の証」は祖母のことをかなりリアルに思い出した。書き方が上手いからなんだろうな。
 最後の「彼の棲む場所」はミステリとちょっと違うけど、別な意味で好き。宮部みゆきテイストかと思ったら、乙一風味もありって感じ。(2月)

■『未明の家』篠田真由美(講談社文庫)注文

 西洋館、色の名前など、私の大好きな道具立てが揃っているにもかかわらず、一番気に入ったのは主要登場人物たちだった。作者のこだわる「作品世界でも時は流れる」という部分に注目。シリーズを通して描かれる彼らの過去、未来を今後も楽しみたい。

■『幽霊刑事』有栖川有栖(講談社ノベルス)現在は文庫化注文

 帯に「哀切」とあったので情感豊かにラブストーリーが語られるのかと思いきや、全然違った(笑)。物語のトーンはむしろ無骨で滑稽。
 もっとも終盤、謎が解けていく様は本格ならではの醍醐味。そしてラストシーン。想像通りとはいえ、胸がいっぱいになってしまった。あのページの使い方は実に効果的。(9月)

■『予知夢』東野圭吾(文春文庫)注文

「オカルトめいた謎を論理的に解決する」という話が大部分で、「科学的に」の比重は第1作より少ないような。探偵役が物理学者である必然性はあるのかな?(9月)

■『リング』鈴木光司(角川ホラー文庫)注文

 ツッコミどころは満載(語りの視点が定まらなくて読みにくいし、話の展開も強引だし)なのだが、これは「発想の勝利」だな。突然理不尽な死が迫ってくる恐怖は分かりやすいし、ビデオテープという身近なブラックボックスを小道具に用いた点も上手い。一番感心したのは題名「リング」の持つ意味が最後にようやく分かるところ。
 ところで、映画の終盤で一番盛り上がる(?)シーンが小説にはなくてびっくり。あれは映画のオリジナルだったのか。(10月)

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